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2019.09.12
eスポーツに関する法的課題への取組み状況のご報告

 2018年2月の設立以降、日本eスポーツ連合(以下「JeSU」)は、日本のeスポーツの発展と振興を目指して様々な課題の解決に取り組んできました。

 その中でも、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」)や刑法、その他の法規制は、eスポーツの発展と振興においては非常に重要な課題であると認識しております。JeSUは、選手、多くのファンの方々及び関係企業の皆様にとって健全かつ適正な形でeスポーツ産業が発展するような仕組みをご提供できるように、経済産業省の調整のもと、法律顧問である西村あさひ法律事務所のアドバイスを経ながら、関係各省庁との協議や、JeSU内部での議論・検証等を行い、これらの法的課題の検討を進めてまいりました。

 そこで、本プレスリリースでは、JeSUの設立以来のeスポーツに関する法的課題への取組み状況と、その現時点における成果をご報告いたします。

 

  1. 景品表示法
(1) 景品表示法における問題の所在

 eスポーツにおいて、高額な大会賞金の提供の機会を増加させていくことは、eスポーツの発展と振興のための重要な課題のひとつであると考えております。もっとも、eスポーツは、題材として各ゲーム会社が開発・販売する商品(ゲームタイトル)を取り扱うものであるため、商品の宣伝・広告に関する規制(特に、景品表示法)については留意する必要があります。

 これに関して、ゲームタイトルのうち、スマートフォン向けゲームタイトルなどによく見られる「課金額がユーザーの強さに影響しない無料タイトル」については、賞金制大会を開催し賞金を提供することについて、景品表示法上の金額の上限規制を受けないことが確認されてきました。しかし、それ以外のゲームタイトル、例えば「パッケージソフトが有料で販売されているタイトル」や「課金額がユーザーの強さに影響するタイトル」については、景品表示法上の規制を受け、大会賞金の最高額が10万円に限られるのではないかとの懸念が指摘されてきた一方で、この点に関して法律上の整理は明確にはなされていませんでした。

(2) プロライセンス制度の設置の背景

 「JeSUプロライセンス制度」は、①賞金制大会の開催にあたって適法性を簡易に確保できるようにするための環境を整備すること、②プロライセンスに基づいて作成される選手のデータベースを通じてプロ選手のプロフィールを公開し、eスポーツのプロ選手という職業を明確にするとともに、スポンサー等からの支援を受けやすい体制を整備すること、③プロライセンスを利用して賞金を提供する場合の大会のルールや運営方法を管理することにより、不公正な大会運営を未然に防止し、大会への信頼性を高めること等を目指しています。そして、その中でも特に、上記(1)で述べたような課題を踏まえて、ライセンス制度の設計にあたっては、以下のような議論を踏まえて、景品表示法上の金額の上限規制が適用されないことを明確にすることに重点が置かれました。

ア. 景品表示法上、ゲーム会社が顧客(ゲームタイトルを購入したユーザー)を主な対象として金銭を提供する場合であっても、それがゲームの購入に基づくものではなく、大会への出演という仕事に対する対価として提供される場合(「仕事の報酬等」に当たると認められる場合)には、当該金銭の提供は景品表示法上の上限額の規制を受けないと考えられます。しかし、JeSUの設立前においては、どういった場合にeスポーツの大会における賞金が「仕事の報酬等」として認められるのかについては、具体的な見解はまとまっておらず、判断基準も存在していませんでした。そこで、JeSUは、選手の活動が仕事であることを、プロライセンスという仕組みを通じて明確化し、それによって受け取る賞金が仕事の報酬等に該当することを目指しました。

イ. 具体的には、ライセンス選手は、大会に出場してゲームをプレイすることにより観客を魅了することが仕事として期待されており、それに値する技術等を持つことが、ライセンス取得の要件となっています。そのため、ライセンス選手がゲームの実技を「仕事」として行うことを、第三者であるJeSUが認定していると整理することができます。そして、その結果として、大会において優秀な成績を残したライセンス選手に対して行われる賞金の提供は、景品表示法上も「仕事の報酬等」の提供として認められると考えております。

 以上より、JeSUとしては、プロライセンス制度に基づいて賞金制大会を実施する場合、ゲーム会社による高額賞金の提供が景品表示法上の上限規制に服することはないと整理し、このような整理に法的に問題がないことについては、これまで関係各省庁との間で意見交換を行い、確認しておりました。

(3) ノーアクションレターの提出

 上記(2)のような事情を背景として、JeSUはこれまで、可能な限り、プロライセンス制度を用いた大会設計及び賞金提供をお願いしてまいりました。これは、景品表示法上の規制がゲーム会社をはじめとしてeスポーツに取り組む事業者に対して不本意に適用されることにより、発展しつつある賞金制大会の枠組みを後退させてしまうような事態を避けるべきであると考えたことによるものです。

 その一方で、プロライセンス制度の公表を端緒として、eスポーツにおける賞金制大会の賞金が「仕事の報酬等」に該当するのであれば、そもそもプロライセンスの有無にかかわらず高額の賞金を提供できるのではないか、といった議論も見受けられるようになりました。しかし、JeSUとしては、eスポーツの健全な発展という観点からは、「仕事の報酬等」というキーワードを逆手に取ることによって、景品表示法の景品類の提供に関する制限規制の趣旨が無視される事態を避けるべきであると考えてきました。

 そこで、JeSUは、プロライセンス制度の施行後の現状を踏まえ、今後の賞金制大会の在り方について更なる検討を行うため、高額賞金提供大会について、プロライセンス制度にとらわれず、景品表示法の規制がどのように適用されるのかを改めて幅広に整理することを目的として、法令適用事前確認手続を行うことを決定し、消費者庁に対して、本年8月5日付でノーアクションレターを提出いたしました。

(4) 消費者庁からの回答の公表及び景品表示法上の整理

 JeSUは、(3)のノーアクションレターについて、消費者庁より、2019年9月3日付で回答を受領いたしました。JeSUが提出したノーアクションレター及び当該回答を踏まえると、eスポーツにおける賞金制大会については、以下のように整理できると考えられます。なお、JeSUが提出したノーアクションレター及び消費者庁からの回答の原文は下記リンクよりご参照下さい。

JeSUからの照会文書 https://www.caa.go.jp/law/nal/pdf/info_nal_190805_0001.pdf

消費者庁からの回答文書 https://www.caa.go.jp/law/nal/pdf/info_nal_190903_0002.pdf

 

ア. 賞金の提供先をプロライセンス選手に限定する大会

 プロライセンス選手は、プロライセンス規約に定められているように、JeSUが別途公認する大会において大会規約に基づき好成績を収め、競技性、興行性ある大会等へ出場するゲームプレイヤーとしてプロフェッショナルであるという自覚を持ち、スポーツマンシップに則り、ゲームプレイの技術の向上に日々精進することを誓約する者で、ライセンス取得に相応しいと判断された者である。このような要件を満たす選手は、類型的に不特定多数の観客・視聴者に対して自らのゲームプレイを見せ、観客や視聴者を魅了し、大会等の競技性及び興行性を向上させることを仕事にしているということができるから、少なくとも当該選手のみが賞金を受け取れる形で行われる大会には興行性があるといえる。すなわち、当該賞金の提供は「仕事の報酬等」の提供であると認められるため、景品表示法に違反しない。

イ. 賞金の提供先をプロライセンス選手に限定しない大会

 所定の審査基準に基づいて大会等運営団体から審査を受けて、参加資格の承認を受けるといったように、一定の方法により参加者が限定されており、仕事の内容として、高い技術を用いたゲームプレイの実技若しくは実演又はそれに類する魅力のあるパフォーマンス(芸能人やスポーツ選手等、著名人が参加する大会のようにゲームプレイ自体に魅力がある場合も含まれる。)を行い、多数の観客や視聴者に対してそれを見せ、大会等の競技性及び興行性を向上させることが求められている場合には、これらの大会への参加者は、仕事として、ゲームプレイを行っているということができる。すなわち、これらの参加者に対する賞金の提供は、「仕事の報酬等」の提供であると認められるため、景品表示法に違反しない。

ウ. もっとも、配信・観戦のいずれも行われないなど、興行的性質がおよそ認められないイベント・大会において、参加者の実力・ゲームプレイの魅力に相応しない高額な賞金を提供して、専らゲームの販促活動のために賞金を提供するような場合には、個別判断によるものの、当該賞金提供が「仕事の報酬等」の提供であると認められない可能性がある点に留意する必要がある。なお、アの賞金の提供先をプロライセンス選手に限定する大会においては、JeSUは大会での賞金提供が景品表示法における景品類の制限の趣旨の潜脱と認められるような事実の有無について、規約を通じて管理・確認している。

(5) 今後の賞金制大会/プロライセンス制度の設計

 JeSUは、今回の消費者庁回答を踏まえ、賞金制大会に関する現行の制度に適切な見直しを加えつつ、プロライセンス制度の運用を通じて、大会環境、競技環境がより充実したものとなるように様々な機能・価値を付与していくことを予定しています。

 今後とも、全てのステークホルダーの皆様にとって安心かつ安全なeスポーツ競技環境の構築・発展に邁進したいと考えております。

  1. 刑法(賭博罪)
(1) 刑法における問題の所在

 景品表示法の他にも、日本国内において賞金制大会を開催する場合は、刑法上の賭博行為に該当しないよう、配慮する必要があります。海外大会においては、競技の参加者から一定の参加料を徴収した上で、その総額の一部を賞金として参加者に提供するといった形式の大会が行われておりますが、同様の仕組みの大会を日本において実施した場合には、賭博行為に該当するとの指摘がなされてきました。

(2) 参加料を徴収しながら賞金を提供する手段

 現時点において、日本全国において行われている大小様々な規模のeスポーツの大会は、運営に携わる主催者の献身的な努力に依るところが大きく、多大な運営費用の負担が生じています。大会主催者のそのような負担を軽減しつつ、賞金制大会をより広い範囲で開催するために、賭博行為に該当しないような形で参加費を徴収するような大会の仕組みが必要であると考えております。そこで、より多くの大会の開催を可能にすべく、参加料を徴収する形で賞金を提供する手段について検討いたしました。

 そして、JeSUとしては、関係省庁へのヒアリングも踏まえ、以下の場合であれば、大会参加者からの参加料の徴収は認められるとの結論に至りました(ただし、ゲームタイトルによって、ゲーム会社が明示的に参加料を取る形での大会開催を禁止している例もあるため、参加料を取ることができるか否かについては個別に確認する必要がございます。)。

①  賞金・賞品が、参加者や主催者以外の第三者(スポンサー)から提供されること

②  (大会の主催者が賞金を提供する場合であっても、)参加料が会場費やスタッフの活動費などの大会運営費用にのみ充当され、賞金・賞品に充当されていないこと

 そして、上記①、②を明確化するための方法としては、例えば、参加料と賞金等を口座上分別管理する、賞金等が第三者(スポンサー)から直接授与されるようにすることが考えられます。

 JeSUは、上記の手法を中心としつつ、具体的にどのような事例が問題にならないのかといった情報の提供を含め、大会主催者、参加する競技者やファンの皆様の負担などにも配慮した形での賞金制大会の開催へのサポートに取り組んでまいります。

  1. 今後の取組み

 上記の課題の他にも、eスポーツの発展と振興に際しては、ゲームをプレイするための練習場や大会会場の整備が問題となっています。これに関して、会場にゲーム機を多数設置した上で、入場客から料金を徴収してプレイさせる形態をとる場合、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風適法」)上のゲームセンター営業に該当する可能性等が指摘されております。

 このような風適法上の課題等も含めて、JeSUとしては、さらなるeスポーツの発展と振興のための環境整備に向けて、引き続き、事業者の皆様、関係各省庁と協議を継続しながら、取組みを進めてまいります。

以 上